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紙のない時代

こんにちは、渡辺です。

社会人になってからは文字を書くことが少なくなったかと思います。郵便物を出す際の宛名も、今ではハガキに直接印刷をすることができますし、封筒の宛名も専用ソフトがあれば封筒に直接印刷できる時代です。DM等の大量郵便の場合は1通ずつ宛名を書いていては大変な作業になるので、大変便利なソフトではあります。

今回は、昔の「紙のない時代」と、今の「紙のない時代」についてお話します。


私が文字を書き始めたのは小学生になった時からだと思います。現代では文字を書くには紙のノートに書くことがあたりまえの事ですが、近代小学校が始まった明治時代には紙が貴重であったため、明治時代の小学生が文字を書く学習に用いたものに「石盤」というものがありました。

その石盤はハンディタイプの黒板のようなもので、「スレート」という板状の粘板岩できています。その板は割れないように木枠がついており、ろう石を鉛筆の形に加工した石筆で文字や数字を書いて練習していました。再度練習するときは布切れなどで石盤をこすって消し、何度でも繰り返し使うことができたのです。

石盤(wikipedia参照) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3%E7%9B%A4

石盤は18世紀末に欧米の学校で使われ始めました。明治5(1872)年に師範学校教師M. M. スコットがアメリカから取り寄せ、初等教育用に用いる方法を伝授し、日本の教育現場に導入されたのです。

石盤という名称は、当時舶来品の代表的な物品名として多くの人に知られていました。特に低学年が用いるのに適しており、いろいろな教科でこの石盤が活躍しました。算数では算用数字の書き方を練習し、習字では石筆の持ち方や基本的な字の練習を、さらに書取りでは口頭で出題された文字を石盤に書き、黒板に書かれた答えと照合するといった使われ方もされていたのです。

その他、文字を教える際は教師が黒板に縦横に線を引き、マス目を作ったうえで文字を書き、それを石盤にも写させるなどと、さまざまな使用方法がありました。いつでも、どこでも、すぐ書ける石盤は、当時の学習方法を格段に進歩させた一級品なのです。私は使ったことはありませんが、当時としては大変便利な物だったようです。

ところで、貴重な紙を使わず学習することへの工夫は、日本でも古くからありました。例えば自分の小さい頃は公園で木の枝などで土や砂に絵や文字を書いたことがあります。それと同じようなことを、学校にある銅像の二宮金次郎は子供の頃に砂を箱に詰め、指や棒で文字の練習をしていたといわれています。


現在では、小学校、中学校、高校、大学と黒板にチョークで文字を書き授業を進めるやり方が一般的ですが、黒板の変わりにホワイトボードが使用されているところもあります。また、あらかじめ先生が授業前にパワーポイントでデータを作成して、文字を書くことなく授業が進行する場面もあると聞きます。

生徒自身もタブレット等を使用して紙を使わなくなっているようです。ペーパーレス化と叫ばれている時代には合っているかもしれないですが、文字を書かなくなると文字を忘れてしまいます。読むことはできるかもしれませんが、書くことが完全にできなくなってしまうので、自分は書くことへのこだわりを持ち続けたいと思います。

参考文献 『図説 近代百年の教育』全1巻(唐澤富太郎著、国土社、1967年)